【中国コンテンツBiz】 オタクグッズからアートへ 中国の新消費者もがっちりつかんだ「ガレキの祭典」!
日本で「ワンダーフェスティバル(Wonder Festival 略称:「ワンフェス」「WF」)」というイベントが行われているのはご存知でしょうか?これは日本の造形メーカー海洋堂が主催する世界最大の「ガレージキット(※)」のイベントです。
そのビッグイベントが、今年4月になんと上海に上陸。初の海外開催となったこのイベントでは、上海のみならず中国各地からファンが集合。徹夜組、さらにはサラリと〇〇万円のお買い上げをする消費者まで現れ、中国における「ジャパニーズ・オタクグッズ」人気を見せつけてくれました。
中国のアニメ・漫画ファンだけでなく、「新消費者層」ともいえる消費者たちの注目を集めたこのイベントをリポートします。
「既製のプラスチックモデルに飽きたらず、自身の造形的ニーズやクオリティにこだわるマニアたちが、自分自身で造りあげた原型をもとに型取りし、レジンキャストで生産する手作りの模型」のことを指します。Wonder Festival公式サイト(wf.kaiyodo.net/knowledge/garagekit/)より抜粋。
「ワンダーフェスティバル」は年に2回、2月と7月に日本で行われています。
「ガレージキット?オタクのおもちゃでしょ?」と笑うなかれ、同イベントは日本でも1日でなんと約5万人を集客。海外からも数多くのファンが詰めかける、まさに「ガレキの世界的祭典」なのです。
その初の海外開催となった今回のワンフェス2018上海は「Pre Stage」と銘打ち、22,000平方米を超える会場で日中およびそれ以外の海外メーカー、企業ディーラー70社以上、150名以上の個人原型師が出展しました。
さらに会場内では1983年以来34年にわたるワンフェス展の歴史と、これまでの優秀作品の展示、「ねんどろいど」と「figma」ほぼ全商品の記念展示、また各参加メーカーの新作も展示されました。
特にファンの目を引いたのはワンフェス限定商品、さらにはワンフェス上海会場限定品。「限定」という言葉に目がない中国消費者、しかも「その道」のオタクとあっては、ボルテージが上がらないわけがありません。
千里の道も何のその。中国ガレキファンは上海を目指す!
わずか2日間というこのイベント。「この機会を逃してなるものか!」と熱い思いをもった中国のオタク、もとい、ファンたち。上海在住はもちろん、近辺都市、西安、北京、山西、はては韓国留学中にもかかわらず、このイベントのために飛行機で一時帰国するという人も。まさに「千里の道を越えて」やってきたのです。
長蛇の列にあっても興奮を抑えられない様子で、中国のメディアやSNS上にも
- 「子供の頃からずっとアニメや漫画が好き。自然にフィギュアが好きになりました。」
- 「日本の原型師に会いに来ました!」
- 「自分はアニメ業界の人間です。今のトレンドをチェックしにきました。」
といった記事や書き込みが踊ります。
今まで中国では数多くの動漫展(アニメ+漫画展示会)が開催されてきましたが、ガレージキットに特化し、かつここまで大規模なイベントは初とのこと。
展示とともに販売されている商品の多くは1万円程度ですが、中国の物価を考えれば決して安くはないものばかりです。
しかし、ワンフェス限定商品やワンフェス上海会場限定品は、開場後2,3時間後にはすべて売り切れに。中国ガレキファンの購買意欲は想像をはるかに超えるものでした。
- 「昨夜12時から並んだ。友達と2人で1万5千元ぐらい(約255,000円)使ったかな。」
- 「今の時点でまだ1,000元(約17,000円)しか使ってない。まだこれから!」
- 「800元(約13,600円)ぐらいかな…」
中には人波に揉まれながらも限定商品を9個「大人買い」する姿も見られ、会場からは尊敬のまなざしで見つめられていました。
唯一日本と違うのは、今回出展された商品は、すべて電子決済だったということ。商品の前におかれた支払い用のQRコードスキャン、モバイル操作で支払いを済ませ、決済完了画面をスタッフに見せれば完了。現金を出す必要なく商品を受け取れたのです。
すでにAlipayやWeChatPayが普及している中国では、たとえオタク商品といえども電子決済が普通となっているのです。
モノが無ければサイン!ワークショップの近距離セッションに感動
フィギュアやガレージキットが売り切れてしまうと、次は原型師のサインに長蛇の列ができていました。
中国での開催ではありましたが、参加者の多くが原型師の名前はもちろん、その作品もすべて把握。会場では通訳スタッフやボランティアが用意されていましたが、多くの参加者は流暢な日本語で原型師と直に交流していました。
商品が売り切れていた場合などは「サインください」と色紙やノートなどを差しだしたり、日本語で「〇〇先生、大好きです」「〇〇先生、サインをください!」と声をかけている姿も。またサイン後には、一緒に記念写真を撮影する人も少なくありませんでした。
さらにワークショップスペース2箇所では実際に参加者も造形を行い、普段なかなか観ることのできない、原型師の方々の制作過程を見学できたり、トークショーなどを行ったりと、多くのファンが集まり、感動を覚えて帰っていきました。
アニメファン+新消費層でつくる中国ガレージキット黄金期
さて、ここまで盛り上がった上海でのワンフェスですが、中国にはこのガレージキットのファンが2種類存在しています。
ひとつが非常にわかりやすいアニメ、漫画、映画、ゲーム、すなわち二次元のファン。元々原作が好きで、その関連商品を集める動きの中でガレージキットやフィギュアを買うようになった人たちです。
前回のユニクロ×ジャンプ50周年の記事でもふれたように、青春期に二次元作品に触れた世代が大人になり、ある程度経済力も持ったことで、「子供時代、青春時代のあこがれ」にお金を費やすようになったのです。
「聖闘士星矢の十二黄金聖闘士を揃えたい!」「SLAMDUCKの流川君(流川楓)を家に置きたい~」などなど、自分たちの好きなキャラクターのガレージキットやフィギュアを買い求めています。
もうひとつはいわゆる中国の「新中産(新中流階級)」。一定の収入があって、生活のスタイル、ディテールや美学を追求し、独自の美意識と価値観を持っています。
彼らは、よりリアルなフィギュアとガレージキットを好みますが、生産量が限られていて、かつクオリティが高い日本のフィギュア、ガレージキットを、オタクグッズではなく「彫刻」「美術品」「コレクション」、つまりアートとしてとらえ、それらを理解し、また生活空間にそれらを添えることで自分のステイタスにしようとしているようです。
さらに、彼らの一部にはいわゆる「投資」として購入する人もいます。
有名な造型師の「作品」は、今後価値が高まり、自分が購入した時以上の価格で売却できる。そう考えて今のうちに購入しようという動きが進んでいるのです。
中国国内では「フィギュアやガレージキット=おもちゃ=子どものもの」と思っている人はまだまだたくさんいますが、この「おもちゃ」に芸術価値を見出す消費者が、中国でも増えている様子。日本の80年代末~90年代初頭のように、現在中国は巨大な消費市場たる「ガレージキット市場の黄金時代」を迎えているのかもしれません。