2020年の「315」、番組延期も 消費者権利保護への課題提起は継続
年に1度、中国の消費者が注目し、多くの企業が緊張する3月15日がやってきた。中国における消費者権益保護の日である。
この日は中国中央電視台(CCTV)が特別番組を放送し、消費者権益を阻害する劣悪品や詐欺的サービスなど、中国の消費者の正統な権利を侵害する企業を摘発し公開していく日である。
多くのメーカーが関連部署からの調査を受けることで緊張度が高まる日であるが、今年は新型コロナウイルス対策に集中するために、中国中央電視台の特別番組も放送延期が決まった。
とは言いうものの、中国消費者の意識には常に「維権(権益保護)」という言葉が置かれている。現時点でクローズアップされている消費問題をのぞいてみよう。
特別番組は延期ながら、独自の社会問題提起も
今年の「315消費者権益の日」は、新型コロナウイルスという「国難」に対応するため、特別番組も延期となった。
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しかし、やはり恒例のこの日に独自で国内の消費問題について取り上げるメディア、企業があった。
中国の4大ポータルサイトの一つでWeiboの親会社である「新浪(sina.com)」が運営している、消費者のクレームサイト「黒猫投訴」は自社に寄せられたクレームの中から、独自に10の社会問題を取り上げた。
その中で注意が必要なのが「盲盒」に関する内容と「網紅(KOL)」に関する記述である。
前者の「盲盒」は近年、中国で大流行しているマーケティング手法一つで、簡単に言えば商品に付随するフィギュアなどのおまけ商品。シリーズ化されており、複数デザインのどれかが入っている、というもの。
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黒猫投訴ではこうした悪質な転売行為への注意を促すとともに、消費者に対しては流行に惑わされない冷静な消費を呼び掛けている。
しかし、人気が出すぎたために、ファンやコレクターたちの間で一部のフィギュアが高騰。それを狙って中古販売アプリ上で高額で売り出すという行為が行われ、まさに社会問題化していた。
こうした風潮に、黒猫投訴では転売などの悪質な行為を批判するとともに、消費者に対して「盲盒マーケティングに流されない冷静な消費」を呼び掛けている。
またもう一つが「KOL」に関するクレームである。
昨年618以降、ライブコマースによる商品販売が空前の盛り上がりを受けており、数多くのプラットホームが、多くのKOLによるライブを配信している。
しかし、そこで販売される商品の品質にはかなりの差があり、消費者にとっては大きな悩みになっている。
昨年、カリスマKOLの李佳琦は「焦げないフライパン」や「上海蟹」になどで、紹介された商品およびそれらを紹介している李佳琦、ひいてはKOLの信頼に疑いの目が向けられていた。
しかし、昨年の商戦におけるライブコマースの盛り上がりに、KOLマーケティングはより盛り上がり、数多くのMCNや“自称”KOLが数多くの商品を世に紹介していた。
また地方の中小企業も自社の商品をこうした小型のMCNやKOLにライブで宣伝させることに躍起になっていたが、そこに「商品の品質」や「発信される情報の正確性」が置き去りになっている。
今後はこうしたKOLマーケティングと同時に、KOLの活用を考える企業の資質も厳しくみられることが予想される。
新型コロナウイルス対策商品は?
さて、注目されるのは新型コロナウイルス対策に関連した商品である。この騒動ではSNSを中心に数多くの情報が出回った。
なかでも「〇〇が予防に効果がある」という、科学的根拠のない情報も数多く飛び交っており、漢方薬の「双黄連口服薬」などは日本のトイレットペーパーにも似た買い占め騒ぎが起こっている。
さらには中国国内メーカーを中心に新たにハンドソープや消毒薬などへの参入も相次ぎ、まさに「新型コロナウイルス対策市場」ともいえる新たな市場が形成されつつある。
また、中国国内の消費者および日本在住のソーシャルバイヤーでは日本国内の「除菌カード」の需要が高まった。
しかし中国の関連当局は「新型コロナウイルスに効果があるかは科学的根拠がない」という旨を発表し、慎重な購入を呼び掛けている。
出所:『日本除菌卡(消毒卡)挂身上能预防新型冠状病毒?谣言』
中国でよくある現象として、このような「○○に効果がある」という触れ込みで売り上げが増大する現象を利用し、その効果の有無にかかわらず効果をうたう商材が急増、それに伴い消費者との間のトラブルも増加する。
おそらく「新型コロナウイルス」終息後にも同様の事象が発生すると予想され、中国の関連当局もそうした行為に対する規制を行っていく可能性がある。
どうしても「新型コロナウイルス後のニーズ」に合わせた訴求、マーケティングをしたくなるが、気を付けなければ消費者の誤解を招くことにもなりかねない。
さらに中国では3月1日以降、ネット上の情報発信に関する管理監督が強化され、「デマ」と判定されると処罰の対象となりかねない。
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広告法に基づいた表現ももちろんながら、こうした訴求法にも十分に気を付けたい。
このような場合にポイントとなるのは、一つには「誤解を招かない表現で訴求しているか」という点と、商品の効果に関する「エビデンス」を明示できるかという点にある。
「何に対して効果があって、何に効果はないのか」を理論的に、科学的な検査結果を基に説明する。そうした姿勢が消費者の信頼を生むことにもなる。
メーカー側も、騒動後のブームに巻き込まれるのではなく、上手に利用しつつ冷静なマーケティングを行っていく必要があるだろう。