中国トレンドExpress

今ドキ中国消費者解体新書 「カスタマージャーニー」で見える中国市場攻略法 Vol.4~上海の生活を覗いてみよう・前編

分かっているようでわかっていない中国の消費者像。しかしその消費者の生活スタイルをより具体的に、現実のものとして理解できなければ開拓できないのが中国市場であったりする。
㈱トレンドExpressでは、こうした「日本からは見ることのできない中国の消費者」の姿を知るために、上海と無錫の女性消費者に簡易アンケートを実施。またWEB媒体『中国トレンドExpress』でも、上海および無錫の女性消費者にインタビューを行った。
今回はその調査結果をもとに、上海の女性消費者のより具体的な生活モデルを理解していこう。

■アンケート対象者
都市:上海・無錫
総サンプル数:180(上海90、無錫90)
対象:10代~40代のスキンケア、サプリメントに関心がある女性
年齢ごとのサンプル数:
18-19歳:15
20-29歳:30
30-39歳:30
40-49歳:15

所得は高い上海。しかし手元に残るのは…?

まずは気になる世帯所得を年齢ごとに見ていこう。

【参考】上海の世帯収入


この中で10代の「30,000元-34,999元」回答が高くなっているが、設問が「世帯収入」としているため、父母の収入を合算している可能性が高い。
見るべきは20代以降を見てみると、全体的な上海の世帯収入水準が見えてくる。上海では世帯月収として2万元~といえるだろう。特に高所得層はやはり30代以降が多くなっている。
ちなみに無錫においては若干下振れして1万元以上、3万元を超える消費者はほとんど見られなかった。

次に、自由に使うことのできるお金、可処分所得はどうなっているだろうか。世帯所得ごとの状況を見てみよう。

【参考】上海の世帯収入ごとの可処分所得


これを見ると、3万元以上になると月に5000元は自由に使うことができるようだ。共働きで双方が15000元以上の収入が必要になるが、これは上海の月収では「中の上」となるだろう。

生活コストの高い上海では、可処分所得は上がりにくい傾向にある。収入だけで判断するのではなく、実際にどのくらいがコストとして割かれるのかを確かめる必要があるだろう。

夜まで時間が無いのが上海消費者~普段の時間の使い方

では、日本から一番見えにくい、「普段何をしているのか」を見ていこう。
アンケートで「出社前」、「通勤中」、「昼休み」、「帰宅中」、「帰宅後」で何をしているのかを聴いてみた。ちなみのこちらの回答は「就業している」場合のみで、主婦層は除外している。

まずは上海、無錫全体がこちら。

【資料】上海、無錫の女性消費者、平日の行動

これを見ると、朝はやはり家事や出勤の準備に追われていることもあって、何かを見たり楽しんだりする時間はなさそうである。
集中しているのはやはり帰宅後。動画サイトを見たり、SNSのチェックを行ったりと、メディアへの接触が最も多い時間帯といえる。

しかし、この行動だが、上海と無錫で微妙な違いが見えるので紹介しておきたい。

【資料】上海女性消費者の平日の行動

【資料】無錫女性消費者の平日の行動

出社前は無錫の女性の行動の方が多様である。これと比べると、上海では家事や子供の世話に追われて、「余裕がない」という印象をも受ける。

これには上海市の特殊な状況がある。
ご存知のように中国では結婚時に不動産を購入し、夫婦は新しい家で生活を始めるのが一般的だ。しかし、上海では東京と同様、中心部の不動産価格が高騰。よほどの経済力が無いと、市内中心部に家を購入することは不可能。
そもそも「空いている土地」が少なく、デベロッパーが新築住宅用の土地を確保できないという背景がある。

 

そのため上海の新婚夫婦が物件を購入するのであれば、自然郊外型になる。
しかし、話はここで終わらない。こうした背景の結果、郊外の物件価格までも上がってきているのである。

例えば上海地下鉄一号線の終点駅(5号線の始発駅)である莘庄周辺の物件は、10年前には「約1万元/㎡」であった物件価格が、5年後には4倍程度になり、今は「6万元/㎡」程度で推移しているという。
となると、消費者としては「もっと遠くへ」と予算に合わせて中心部からの距離が伸びている。さらに、上海の地下鉄が発展したとはいえ、人口半分の東京よりも路線数は格段に少ない。

 

そうなると消費者もマイカー通勤などに切り替えらざるを得ないのだが、市内で待っているのは慢性的な大渋滞(実際に上海のアンケート回答者のほぼすべてが自動車通勤だった)。
家が遠く、さらに渋滞を加味すれば、どうしても「早く家を出ざるを得ない」、そのため朝が慌ただしくなる。

 

上海に比べれば無錫は街自体がコンパクトで、地下鉄やバス通勤が多いため、出勤中も看板などが目に入るようである。

こうした結果を見ると、上海の女性は朝早く起きて、バタバタと家事と子供の世話をして音楽を聴きつつ出勤、一日ガッツリ仕事をして、夜になってやっとホッと一息。動画サイトで息抜きをする…、というライフサイクルが見える。

無錫は上海に比べてややのんびり。昼休み中に「寝る」という回答が半数近いのも、中国の習慣である「昼の仮眠」が残っている証拠。気質においても上海に比べ穏やかという点もこの結果に影響していると思われる。

意外に多様なメディアに頼るのが上海の〇代

つづいて、ペルソナを知るうえで重要な「メディア接触時間」を見てみよう。平日休日に分けてアンケートを取っているが、今回は日数の多い平日の様子から見ていこう。

【参考】上海女性消費者のメディア接触時間


まずすべての消費者にとってWeCtatが手放せない存在になっていることが見て取れる。これは情報収集であり、友人や家族とのコミュニケーションそのものと言ってもいい。
そして見てわかるようにテレビやラジオ、新聞、雑誌といった伝統的メディアは8割近くが見ていない現状が見える。

しかし同時にその他のメディアの接触率も決して高くはなく、「小紅書」、「抖音」と「優酷」の利用度が高い。すなわち、使用されるメディアが限定的になっているのである。
特に「抖音」は日本の「Tik Tok」とは異なり、単なる若者のパフォーマンスや動物動画にとどまらず、PowerPointの作成ノウハウや外国語学習などのスキル、硬筆筆記の方法や文化情報などの教養など、多様な情報が発信されているため、自分を高める目的で使用するケースもみられる。
それが接触時間になって表れていると言えるだろう。

しかし20代と30代を比較してみると、大きな違いが見える。

【参考】上海20代女性の平日のメディア接触状況

【参考】上海30代女性の平日のメディア接触状況

お分かりだろうか?
20代の方が比較的まんべんなく多くのメディアに接触している。さらに、一つ一つのメディアにかける時間も30代よりも長くなっている。
それに比して30代は「WeChat」と「小紅書」、そして「抖音」に集中して接触しており、それ以外のツールは「捨てている」状況が見て取れる。
これは、30代の方が経験上「信頼できるメディアを絞っている」とも言うことができる。

 

そのため20代であれば幅広いメディアを使っての情報発信、30代に対してはメディアを絞ったピンポイントの訴求が効果的という仮説を立てることができる。

 

日本のメディアなどでは「中国の消費者」、「上海の女性」、「富裕層」という、比較的ぼんやりとしたイメージだけが伝えられており、企業もそういった広く浅い情報に流されがちだ。
しかし、こうした所得状況や日々の行動パターンを確認しただけでも、抱いていたイメージとの相違や普段見えなかった部分の実態などが見えてくる。

こうした調査・情報収集を積み重ねながら、より現実に即したターゲット像を設定していくことが重要なのである。

次回はアンケート&インタビューからペルソナの購買パターンを見ていこう。