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「〇線都市って何が違うの?」 中国都市ランキングの読み解き方・前編

中国のビジネスをしているとよく聞く言葉が「〇線都市」という、都市のレベルを現す言葉。

なんとなく「そういう違いがあるんだ」ということはわかっていても、「上海や北京は一線都市」、「じゃぁ隣の蘇州や杭州は?」といった疑問や、「そもそも、何が違うのか?」といった困惑など、日本のマーケッターにとって困惑のタネになっているのもまた事実である。

そこで、中国トレンドExpressではこうした中国の「〇線都市分類」を分析。前後編で「中国都市分類をいかに理解すべきか」について紐解いていく。

今回はまず、いわゆる「〇線都市」とは何なのかを整理していこう。

行政区分とは異なる都市ランキング

もともと、中国区の行政区分は日本とは若干異なる。

日本の都道府県にあたるのは、「直轄市(4市)」、「省(23省)」、「自治区(5自治区)」、「特別行政区(香港・澳門)」から成り立つ。

 

このうち特別行政区以外は、TOPである地方の「共産党委員会書記(例:上海市共産党委員会書記)」、およびNo.2である「長(例:上海市長)」は中央政府から任命され、派遣されるのが通例となっている。

 

そしてこれらの下に、それぞれ「市(地級市)」や「区」、さらにその下に「区(主に市の下にある)」、「県」や「県級市(県と同級だが名称が市である。例)山東省青島市即墨市など」、さらに「村」などが設置される。

 

しかし、これらは行政単位であって、都市の経済レベルを計る者ではない。

経済発展が急速に進んできた中国では、行政単位とは異なる、別の経済発展状況を示す指標が必要だったのである。

それが「〇線都市」という分け方であった。

 

もともとはその都市の不動産価格などをベースに、中国国内で「なんとなく」用いられてきた用語で、明確な定義があるわけではなく、また発表元(シンクタンクやアセットメントマネジメント企業)によって、ランキングにもバラつきがあった。

 

それが整備されてきたのが2016年ごろである。

中国で権威のある経済誌『第一財経』と、同媒体が運営するシンクタンクが一定の指標に基づき中国の都市を分類。

『中国城市商業魅力排行榜(中国都市ビジネス魅力ランキング)』として、「一線都市」から「五線都市」までの分類・ランキングを毎年5月ごろに発表している。

 

また、このランキングは政府による「公的」なものではないが、『第一財経』というメディア自体が国営の経済誌であることから、公的に準じる指標として多くのメディア、研究機関で用いられている。

 

注意が必要なのが、日本でいう都道府県である「省、自治区」レベルではなく、「都市」であること。

中国の省は、確かに行政位置としては日本の県にあたるが、人口の規模が違う。

もっとも人口の少ない寧夏回族自治区でも680万人と日本の千葉県レベル。それ以外は軒並み1,000万人クラスであり、山東省や広東省に至っては1億人を超えている。

【参考】2018年省別平均可処分所得分布 単位:元

出所:中国統計局の発表を基に中国トレンドExpress編集部にて作成

そのため、省内の各都市でも大きな格差が生まれている。

例えば広東省であれば、広州市や深圳市は上海や北京と同じく一線都市だが、省内の東莞市は新一線、中山市は二線(2019年)、そして雲浮市は省内でもっとも低い五線都市となっている。

2019年の最新ランキングを見てみよう

ここで2019年、最新のランキングを見てみよう。各レベルごとランキング順位に沿って名前が並べられている。

一線都市

北京市、上海市、広州市、深圳市

新一線都市

成都、杭州、重慶、武漢、西安、蘇州、天津、南京、長沙、鄭州、東莞、青島、瀋陽、寧波、昆明

二線都市

無錫市、仏山市、合肥市、大連市、福州市、廈門市、哈爾濱市、済南市、温州市、南寧市、長春市、泉州市、石家庄市、貴陽市、南昌市、金華市、常州市、南通市、嘉興市、太原市、徐州市、恵州市、珠海市、中山市、台州市、煙台市蘭州市、紹興市、海口市、揚州市

※三線以下は割愛

ここで気になるのは、「一線都市」と「二線都市」にある「新一線都市」の分類。

これは、2016年からの分析の中で「明らかに他の二線都市よりも発展している。しかし一線都市には及ばない」という都市が現れてきた。

2018年からそれらを「新一線都市」と定義づけ、二線都市とは区別してランキングしている。

 

ちなみに、このランキングは場合によっては「入れ替え」が行われる。

 

例えば江蘇省無錫はかつて新一線都市とされていたが、最新版では雲南省昆明市に抜かれ、二線都市に格下げとなっている。

ランキングの基準となっているのは?

では『第一財経』は、どういった基準の元、都市のランキングを決めているのだろうか。同誌の発表によれば、以下の5つの要素を数値化し、複雑な計算を経てランキングを決定しているという。

  • 商业资源集聚度(商圏充実度)
  • 城市枢纽性(都市交通機能性)
  • 城市人活跃度(住民活力)
  • 生活方式多样性(生活モデルの多様性)
  • 未来可塑性(未来創造性)

以下、どんな内容なのかを簡単にまとめてみよう。

1.商圏充実度

-大手ブランド重視度指数(ブランド店舗数、進出ブランドの数、ブランド店舗の増減状況)

-商業重要度指数(商圏の実力、メイン商圏の経済力)

-基礎商業指数(オンライン店舗数、飲食店数、アパレル店舗鄒、スーパー・コンビニ店舗数)

2.都市交通機能性

-都市間交通基礎施設指数(高速鉄道の本数、直通状況、空港数および直行便・国際線数、高速道路3時間到達可能都市数)

-交通連携度指数(都市間往来航空便連携度、高速道路往来連携度、高速鉄道連携度)

-物流到達指数(物流拠点数、物流スピード、集荷・配送数量)

-商業資源集中度指数(都市の各消費品類とエリア内他都市との関連度合い分析)

3.住民活力

-消費活力度指数(餓了麼フードデリバリー活用度、EC購入頻度、越境EC活用度)

-SNS活力度数(TalkingData設備活用度、知乎ユーザー活用度、小紅書ユーザー活用度、Douyinユーザー活用度)

-ナイトライフ活力度指数(餓了麼夜食デリバリー比率、Douyin夜間利用度、TalkingData夜間活用度、バー店舗数、NASA夜間光亮強度、映画館夜間上映活用度、都市インフラ夜間活用度)

4.生活モデルの多様性

-外出新鮮度数(飲食店の多様性、スポーツ施設の豊富さ、博物館数、カフェ店舗数、書店数、映画館数、Douyinホットスポット数)

-消費多様性指数(蝦米音楽通年支払額、京東図書売り上げ比率、1人当たりの映画オンライン消費および都市興行成績総額、C-Trip旅行消費平均金額及び総額、オンライン消費の多様性)

-レジャー豊富度指数(京東図書売上比率、Keep通年ランニング距離およびスポーツ高頻度人員の数、蝦米音楽における通年平均再生時間および再生音楽の多様性、愛奇芸通年動画再生量および平均1日の再生時間、C-Trip旅行目的地数およびハイエンド・ニッチニーズの数)

5.未来創造性

-ベンチャー気質指数(新会社設立数、融資規模、ベンチャープラットホーム数、優良国内企業数)

-人材吸引力指数(空気の質、大卒性の在留率、大卒性の優先就職都市指数、海外帰国者就業指数、学部大学生量指数、若者指数)

-消費潜在力指数(会員制サービスユーザー指数、オンライン消費増加指数、良質商品売上額及び増加率、若者の消費力)

-都市の規模および成長データ(GDP総額及び成長率、常駐人口および成長率)

 

これを見ると交通インフラなどの政府主導の設備ももちろんだが、SNSの活用度やフードデリバリー、ECなど、新しい消費スタイルの浸透度が大きく注目されていることがわかる。

とはいってもバラつきがある都市分類

さて、これで日本ではイメージが湧きずらかった中国の発展度合いが可視化できる…と思いがちだが、決してそうではない。

 

広大な中国という土地柄だけあって、同じレベルに設定されている都市でも、角度を変えると大きな格差があるケースが多いのである。

 

以下は、新一線都市の消費品の売り上げをまとめた2018年「社会消費品小売総額」の比較である。

【参考】新一線都市の2018年消費品小売総額の状況 単位:億元

出所:中国統計局の発表を基に中国トレンドExpress編集部にて作成

新一線都市は過当競争に陥っている一線都市から市場を拡大させるためのスペースとして注目されているが、その消費金額には大きな格差があることがわかる。

同じ新一線都市に区分けされていても、広東省東莞市や雲南省昆明市は、重慶市の半分以下の金額しかないのである。

 

そのため、こうしたランキングは「多方面の要素を総合的に分析し、平均的判断した目安」と見ておくのがよいだろう。

実際にその街の状況を知るには、「百聞は一見に如かず」、直接見に行くことをお勧めしたい。

 

そこで後編は一線、新一線都市などを視察する場合におけるチェックポイントについて分析してみたい。