再度考えてみよう 「中国市場はクチコミがカギ」であるワケ
中国市場を攻めるには、まずクチコミを高めなければならない。
これはすでに日本のみならず、中国事業を展開しているものであれば共通の認識と言っていいだろう。
しかし、それが何故なのか?についてお思いを巡らせたことはあるだろうか?
なぜクチコミを求めるのか。さらにクチコミ情報を集め、分析することで何が見え、どのように役立つのか。
新型コロナなどの影響で新たにクローズアップされる中国市場、中国の消費者を知るために、この命題をもう一度考え直してみよう。
考察:中国SNS発展と消費者心理~中国現代社会の成立から見る
まずは「中国ではクチコミが重要」という要素を、もう一度深く掘りなおしてみよう。
「中国の消費者は商品を購入する際に必ずクチコミを参考にする。そしてその情報源はSNSである」
これは中国マーケティング業界では当たり前の事実である。しかし、中国の消費者はなぜここまでクチコミを気にするのであろうか?
【グラフ】購入時のクチコミ利用比率
そんな理由を社会的背景、中国という国の発展の経緯から分析してみたい。
下の図は1949年の中華人民共和国(現政権)の成立から2020年までに起こった大きな出来事をまとめたものである。
【図】中国建国から現在までの主な出来事
ここで重要なのは80年代から90年代初頭にかけての部分。改革開放路線が明確に推進された中で、『公司法(企業法)』の登場によって株式会社が登場するようになり(80年代末は個体商工戸といった)、それに伴い個人所得税が制度化され、現在の市場経済体制が成立を見る。
ここが中国消費者の理解するためのポイントの1つ。
特に計画経済時代、企業ではなく政府の1部署として生産を行っていた。そこで求められていたのは中国国民の需要を満たす量が優先され、「質」に関しては重要視されてこなかった。
そして、その状態のまま改革開放、市場経済の推進の流れに乗り企業化、企業が利益を得ることが許されるようになった。企業としては自社の質はいったん置き、「量」を売ることで利益を出そうとする。
自然に広告も「どう買わせるか」にフォーカスをしていき、「買わせるためであれば、多少の誇張は…」となっていく。
それが蓄積すると消費者としては企業の発信する情報を割り引いて考える癖がついてしまう。「中国では広告を信じない」といわれるゆえんである。
▼関連記事
医師が薬用酒に提言したら即「逮捕」!? 中国で「広告」が信じられないワケ(1)
医師が薬用酒に提言したら即「逮捕」!? 中国で「広告」が信じられないワケ(2)
それに対して初期のSNSで発信しているのは主に個人。特にだれかに読ませることを目的としていない個人的なつぶやきである。
これが企業からの思惑などが含まれていない(利害関係のない)情報として、信頼の対象となったのである。
広がりを続ける中国SNS。消費者の心を可視化
こうして中国消費者の生活に受け入れられた中国のSNS。発信することで充実感を得る一般消費者の増加とともに、そうした情報を楽しみにし、そして頼りにする消費者も増えたことで、SNSの種類も増加を続けた。
Weiboをはじめとしてクローズスペースでの会話のできるWeChat、主に自身の体験を共有する小紅書、日本の食べログにも似た飲食店・施設のレビューサイト大衆点評などが登場。
ECアプリであるT-MallやJD.comなどに加え、現在はショートビデオアプリである抖音と快手が人気を集めるなど、その数およびジャンルなど、多種多様となっている。
【表】中国の主要SNS、ショートビデオ、Q&Aレビューアプリ
これらが互いにジャンルを超えて連携もしくは反発しあいながら、それぞれの機能を充実化し、それに伴いユーザーも増える。
こうしたSNS上に、中国消費者が日々、何気なく行う書き込み(投稿やレビュー)は、いわば中国消費者の顕在、潜在的なニーズの表現。すなわち心の声とも見ることができる。
そのSNS上に漂う心の声を集めたのが、いわゆるソーシャルビッグデータと呼ばれるものである。
もちろんこれは集めておくだけでは意味がない。
その集めた膨大な量の中国消費者の言葉を集め、それを整理し、分析をすることによって中国消費者の隠れたニーズや嗜好、さらには自社のブランドがどのように受け取られているのか、その満足度などを読み取ることができる。
企業にとって、これらの情報は次のアクションを決定するための重要な指標となる事は言うまでもない。
ソーシャルビッグデータでどのようなことが読み取れるのか、市場調査の手法と合わせて整理したのが下の図である。
ちなみに、中国の情報におけるSNS依存度は年齢が下がるごとに高まる。
下図のように、中国でいう95後世代(1995年以降に生まれた世代)、Z世代といわる消費者は、中国のSNS拡張とともに育ちってきた世代であり、その使用を熟知している存在である。
【図】中国ネット普及率とモバイル化、SNS登場年、年齢層の対比
SNSを自己表現の場としてだけではなく、娯楽の場でありそして重要な情報ツールである。その重要度は、前述の社会背景も含め、テレビや雑誌などが影響力を保っている日本以上といっても過言ではない。
中国のZ世代はこれまでの消費者とは異なる特性を持つように、ニーズや価値観の変化が猛スピードでかつ大きく進んでいる。
マーケティング領域においてSNS上のクチコミを活用した情報発信も重要であるが、同時に新たな消費者の変化・特性を的確にキャッチし、それを企業の市場における行動を決定していくためにも、SNS上のクチコミを収集、分析することがより重要性を帯びてくるのである。
次回からはその実例を見ながら、中国における「データドリブン」について考察を進めてみたい。