日本企業を悩ませる中国商標問題 ~最新判決から考える~
日本を含めた海外ブランドが中国市場で突き当たる問題の一つが「商標権」の問題。明らかな模倣商品などに関しては法律の保護もあり、戦うことができるのであるが、商標に関しては勝手が異なる。
先日中国で判決が下された日本大手ブランド敗訴の商標裁判を見ながら、何をしていくべきかを考えよう。
戦い続けた良品計画だったが
12月11日、中国で日本の良品計画と中国の北京棉田紡績品有限公司との商標権の争いについて、二審判決が言い渡され、良品計画側が敗訴し、北京棉田紡績品有限公司対して62万6000元を支払うよう命じられた。
中国は二審制であるため、これが最終判決となるとみられる。
同民事訴訟は、中国語の「无印良品」の商標権を有する北京棉田紡績品有限公司が、日本の株式会社良品計画および無印良品(上海)商業有限公司による「商標権侵害」を訴えていた民事訴訟であった。
本件の経緯、結果はBusiness Insider Japanの記事に詳しいのでそちらを参考にされたい。
▼参考記事
【独自】「無印良品」商標訴訟で本家・良品計画が中国企業に敗訴確定。賠償金1000万円支払い命じる判決
出所:Business Insider Japan
この結果、日本の無印良品ブランドの商品のうち、北京棉田紡績品有限公司が商標を登録している枕やベッドカバー、シーツ、タオルなどでは「無印良品」が使えないことなり、すべて「MUJI」ブランドにしなくてはいけなくなった。
世界一般に言えば「無印良品」といえば株式会社良品計画のもの、という印象であるはずなのだが、今回の判決ではその現状とはかけ離れた内容となってしまい、WeiboなどのSNS上では「本物が敗訴なんて…ん」や「合法不合理」など、この判決に疑念を抱く消費者の書き込みが見られる。
そこには中国の商標法の未成熟さがある。
中国では「商標」の概念はちと違う
中国には「商標法」という法律が1982年の段階で成立しており、その後1993年、2001年、2013年、2019年と修正が加えられて現在に至る。
その間、中国行政も商標登録者の権利を守るための摘発、指導の手を強めている。そうした姿勢を見せることで「知財権を守る国である」ことのPRにもつながるためだ。
しかし、そうした摘発強化の反面、法律の不十分さも指摘されている。
日本企業などを悩ませているのは、中国の商標界では原則「早い者勝ち」であったり「ちょっとでも違っていればOK」であったりするということだ。
そして、そうした法の未成熟さを利用した「商標投資」ともいえる商標登録を数多く招いてしまっているのである。
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商標局の発表によれば中国の商標登録申請件数は、ここ数年で増え続けており、平均的な成長率も20%を超えている。一部の報道では「中国は世界最大の商標権数を誇る」とまで言われるほどだ。
【グラフ】中国の商標登録申請件数の推移と伸び率 (単位:万件)
出所:中国商標局の発表、関連報道に基づき中国トレンドExpress編集部で作成
この中には自社のブランドを登録し、その権利を守ろうという企業が多いのだろうが、中には「中国国内で登録されていない海外ブランド」を勝手に登録申請するブローカー的存在も含まれていると考えられる。
こうした商標登録の目的の多くは、海外ブランドが中国市場に進出する際に、その権利を売ることで大きな利益を受けようとするものである。
日本を含めた海外では、一般的に「国際的、社会的知名度」が考慮されることが多い。その商標と商品、会社が深く結びついており、社会的な認知を得ている場合、当該国で商標登録をしていなくても、その権利が認められるケースがある。
しかし前述のように、中国の商標概念では「早い者勝ち」という意識が強く、慣例として紛争となった場合でもこうした知名度などが加味されることは少ない。
今回の案件でも当初、良品計画側はこの慣例に基づき、1980年代から日本国内において一貫して「無印良品」のブランドを使用しており、消費者において「無印良品=良品計画のもの」という認知を得ていると主張してきた。
しかし、今回の判決では「商標の影響には地域差がある」としてそれを取り上げず、先に商用登録をしてあった北京棉田紡績品有限公司側の全面勝訴という判決を下したのである。
すでに「仁義なき戦い」の中国商標バトル
さて、日本では中国の商標権判断に批判的なコメントが数多くある。
確かに北京棉田紡の主張、中国の裁判所の判決は、国際慣例に即したものではなく、にわかには受け入れがたい。むしろ、国際スタンダードからは外れているといえるだろう。
さらにそんな中国商標関連法律の未成熟さを、一部の現地企業が利用し、「不当な利益」を稼ぐという現状を巻いている。
こうした一部中国企業の行為は今回の判決に対する中国SNS上の書き込みがに見られるように、中国の消費者からも白眼をもって見られているものの、根本的解決に至っていないのが現状である。
同時に日本にとってみても、日中国ビジネスが盛り上がっており、多くの商品が中国消費者に購入されている現状で、こうした中国の商標の現状、課題点を考えないわけにはい。
そもそも現在、日本国内で中国消費者の人気を集めている商品は数多くあるが、それらのうち中国国内で商標を登録しているものはいくつあるだろうか?
人気が出て、いざ本格的に中国市場を狙おうとしたときには、自社のブランドや商品名が登録されており、使用できない。
そういった状況を、日本企業は10年以上前から繰り返してきている。
さらに近年、気をつけねばならないのが「ドメイン」。こちらも登録ラッシュが続いている。
海外などのブランドが中国に進出し、「ブランド名.cn」のドメインを申請したところ、全く関係ない会社によって登録されており、その使用権を高額で買い戻したという話も耳にする。
そうした場所でまず必要なのは口頭での批判や不満ではなく、中国のルールを理解し、そして「中国の法律を味方につけ」つつ、合法的に自社の権利を守ることを考えていかねばならない。
すなわちブランド名称(日本語、中国語、英語)やロゴ意匠、さらにはできるだけ広範囲の商品セグメントでの権利を、早めに登録しておくにしかずである。
それは「中国市場を考え始めたから中国で商標を」では遅い。すでに多くメディアで報道されているように、「日本国内で人気」の商品、ブランドもすぐに商標登録をされていく傾向にある。
さらに言えば中国市場を考えていなくても、自社のブランド名と全く同じ名前の全く異なる商品が中国で売られている、といったことも起こっている。
とにかく中国の「商標ブローカー」とも呼べる動きに、商標権の保護意識においては日本のほうが遅れをとっている、という印象をも抱いてしまう。
しかしこれが現状なのである。
そうした市場で戦うとなれば、相手を上回るスピードで、先手を打っていく必要がある。そのために意識的に情報を収集、対策を講じておきたい。
日本貿易振興機構(JETRO)ではこうした日本企業向けに中国商標を含めた知的財産に関する情報を発信している( https://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/ip/ )ので、気になる場合は相談してみるのもよいだろう。
いずれにせよ、中国の商標問題に関しては日本だけでの販売においても「他人事」と考えてはならない。
常に細かな情報収集を心得よう。