【2019年アーカイブ】 「電子商務法」施行から10カ月。 この法律はなんだったのか?
2019年1月から施行された電商務法(通称:電商法)。この法律は施行前から日中間で大きく注目されていた。特に日本の商品を買い付け、中国のユーザーへ販売していたソーシャルバイヤーたちへの影響が大きいとされてきただけに、中国のみならず日本のメディアからも注目されたこの法律、施行から10カ月を経た今、その状況はどうなっているのだろうか?
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「電商法=ソーシャルバイヤー規制」だったのか?
施行直後、やはりソーシャルバイヤーたちも緊張感をもって臨んでおり、商品名を「暗号化」したり、商品写真を手書きのイラストに変えたりとリスク回避を計ったり、いったん活動を休止させたりといった判断を行っていた。
その結果、日本の百貨店や化粧品メーカーの第1四半期の決算発表では「売上減」といったキーワードとともに「バイヤー活動の減退により」といった説明がなされることとなった。
しかしながら、3月を過ぎたころからソーシャルバイヤーたちも活動を再開させており、そのころに行った上海での取材活動中も、消費者から「以前と変わらない」といったコメントが多く聞かれた。
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しかし現在、Baiduの一般検索やニュース検索を行ってみても、ソーシャルバイヤーと電子商務法に関わる報道は、ほとんどが上記1~3月の物で、直近ではほとんどみられていない。
そもそも新しい法律が施行された直後は、必ずと言っていいほど大規模な摘発などを行い、メディアでその模様を伝えることで、法令順守を促すというのが中国の基本的な手法であったのだが、ソーシャルバイヤーに関しては全くと言っていいほど動きが無い。
施行からすでに10カ月が経過しているにも関わらず、である。
そこから考えるに、現時点でソーシャルバイヤーを消滅させる規模で規制を強化、摘発する意図はないと考えられる。
もちろん税関での免税規定を超えるようなハンドキャリーによる大量持ち込みは課税対象となるが、それ以外は「法の定める範囲であれば」、在日バイヤーたちの事業はこれまで通り展開可能と言えるだろう。
現時点では電子商務法はソーシャルバイヤーのみをターゲットにしたものではなさそうである。
それでは「電子商務法」とはいったなんだったのか? それを読み解くニュースが、中国最大商戦の陰で流れていた。
中国EC最大手に『電商法』による警告
この『電子商務法』に対する理解を変える事象としてクローズアップされたのが、つい先日終了した「ダブルイレブン」での出来事であった。
ダブルイレブンはご存知の通り、中国最大のEC商戦。特に業界1位のT-Mallと2位のJD.comの売上合戦の行方は、多くのメディアの注目するところであった。
その商戦において「T-Mallが各メーカーに二者択一、つまりJD.comにも出店している場合はイベント参加を認めない」といった要求を出していた、というのである。
実はこの問題、主に家電メーカーを中心先鋭化しており、実際に2019年6月17日、すなわち618商戦の前日に家電メーカーの「Galanz(格蘭仕)」が「5月にPDDとの提携のためPDD本社を訪問してからT-Mall店舗において“検索に表示されない”という対応を受けた」ことを公表し、T-Mall側と争う構えを見せた。
そうしたなかでダブルイレブンが近づいた10月半ば、ついに司法が介入。法律に基づいて「アリババの二者択一の強要は不当である」との判断を下した。
その際に論拠とされた法律に、今年1月に施行された『電子商務法』が中心的な法律として含まれていたのである。
その判断の根拠となったのは同法の22条と35条。
22条には「電子商務経営者は技術的優勢、ユーザー数、関連業界のコントロール能力および他の経営者がその電子商務経営者に対する交易上の依頼度などの要素によって市場の支配的地位を有する場合、その支配的地位を乱用し、市場から排除するもしくは競争を制限してはならない」(『中国電子商務法』第22条 筆者訳)とあり、「EC業界における独占禁止」条項とも読める内容になっている。
また35条には「電子商務プラットホーム経営者はサービス規定や交易規則および技術的手法を利用し、プラットホーム内経営者のプラットホーム内での交易、交易価格およびその他の経営者の交易に不合理な制限や不合理な条件、またプラットホーム内経営者に対して不合理な費用を要求してはならない」とされており、こちらは「プラットホーム内の店舗の正当なビジネスを規約や技術によって阻害してはならない」ことが定められている。
中国の小売業はEC以前より「小売店」が上位者としてメーカーに不合理な要求や費用を取ってきており、それがEC化した現在でも「アリババの二者択一強要」のような形で残っていた。
しかし『電子商務法』がそれの是正を行った、少なくとも状況改善に一役買ったと言える。
これに見るように、『電子商務法』はソーシャルバイヤーをターゲットにした者ではなく、「中国EC全体」を包括して管理する法律なのである。
その中にはTaobao、T-Mall、JD.com、PDD、VIPといった大手EC業者も含まれれば、企業独自のネットショップ、そしてもちろんソーシャルバイヤーも含まれる。
ただそれは、「ソーシャルバイヤーを禁止」するものではなく、消費者保護や税制度の整備という視点から法制化していくことに主眼を置いての管理、中国でよく使われる言葉を借りれば「健康的な市場環境の整備」が行われていくことになるだろう。
余談ではあるが、前述のように今年1月にはソーシャルバイヤーたちが同法の施行状況を見るために活動をいったん控えたシーズンがあり、それにより日本の小売業などに影響が出た。
そのことを決算発表やメディアなどが報じたことで、日本国内では「売り上げの多くをソーシャルバイヤー支えていた」ことが公的に認められる雰囲気が醸成された。
「規制する法律」と思われてきた法の施行によって、彼らが陰ながら果たしてきた日本経済への貢献が認知され、ポジティブな注目を集めることとなったというのは、なんとも皮肉な話である。
今後は法の整備の元、彼らと日本企業、そして中国消費者画「三方よし」の関係を構築していくことを期待したい。