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今ドキ中国消費者解体新書 「カスタマージャーニー」で見える中国市場攻略法 Vol.5 ~上海の生活を覗いてみよう・後編

中国の諸費者像をよりリアルに設定するためのカスタマージャーニー・ペルソナ設定編。前回は上海女性の生活パターンをWEBアンケート中心に見てきたが、今回はもう1歩進んで購入のための情報収集モデルについて分析していこう。商品の種別によって消費者がチェックするポイントは異なるが、ここでは日本の商品の中で中国消費者から人気が高く、また日本の企業が中国向けに最も力を注いでいる「スキンケア商品」を例に、中国消費者の購入パターンを見ていこう。

▼前回の記事は
今ドキ中国消費者解体新書 「カスタマージャーニー」で見える中国市場攻略法 Vol.4~上海の生活を覗いてみよう・前編

上海の女性は意外に堅実派? スキンケアにいくらかけるのか?

まず、スキンケア商品にどのくらいの費用をかけるものなのか、WEBアンケート調査を見てみよう。

【参考】上海女性の毎月スキンケアにかける金額

これを見ると、上海の女性の内20代まで毎月、より多くの金額をスキンケアに投資していることがわかる。逆に30代に入ると徐々に節約モードになる。これはやはり「家庭を持つ」という生活の変化が大きいようだ。

上海でインタビューした2歳半の子供を持つ女性は「子供が小さいので手がかかる。なので、スキンケアもじっくりやるというよりは“素早く”“手軽に”」と語る。
上海では家事や育児の分業意識が強いが、子供が幼いうちはどうしても母親の割合が多くなってしまうもの。そのため、スキンケアも値段よりも手軽さとなるのは日本と変わらないようだ。

またこうした育児に関しては日本以上にお金がかかる。教育費用についてももちろんだが、小さいうちは子供の口に入るもの、肌に触れる物に関してはワンランク高い品質を求め、自然そのコストは高まる。
そのため限られた経済条件の中で、こうした化粧品なども「コスト削減対象」となっているのかもしれない。

だがこれと、二線都市である無錫の状況を比べると面白いことがわかる。

【参考】無錫女性の毎月スキンケアにかける金額

上海では「1,000以上使う」という消費者は全体の4割弱であったのに対して、無錫ではなんと6割を超える。

これは前回述べたように、2線都市では収入は1線都市に及ばないものの、生活コストが低いために可処分所得が高くなるという状況が影響していると思われる。

またこうした余った可処分所得を使う場所も少ないため、大都市ではできない「贅沢」を楽しむことができるのである。

ただ、上海・無錫ともに「499元以下」という回答がほとんどなかった。上海で取材した9歳の子供を持つ女性は「安すぎるものはかえって不安」と語るように、「高い→高機能・高品質」、「安い→機能性が低い・危ない(?)」という意識がある。

このあたりが中国消費者の「ボーダーライン」と言えるかもしれない。

上海の女性はどこからの情報を信頼するのか~オンラインとリアルの間で

続いて、消費者が商品を購入する際「参考にする情報源」について見てみたい。ちなみに、メディアの接触時間に関しては前回で紹介しているので、それを参考にされたい。

【参考】上海女性の商品情報の参考メディア


10代の内はまだ特定の情報ソースが定まっていないためか、平均的に多様なメディアから情報を取得していることが見て取れる。
しかしそれが経験を積みつつ、20代になるとツールの選別を行う傾向が見え始める。そして30代に入るとほぼ「情報取得ツールが確定してくる」。

これを見ると、最終的には「WeiboKOL」と「WeChatモーメンツ」、そして「リアルのクチコミ」に集約されていることが見て取れる。

やはりWeiboKOL発信を見る消費者も依然として多い。一つには近年、Weibo自体がKOLによる情報発信を強化しているという点も挙げられるだろう。
また、メーカー側も積極的なプロモーションをWeiboの「話題ページ」などを活用しつつ展開していることで、新しい情報や有名人による使用感などを収集する意味でWeiboをチェックしているようである。

しかし、この結果で注意が必要なのが、「WeChatモーメンツ」、そして「リアルのクチコミ」を参考にする比率が非常に高く、双方を合わせると8割以上が参考にしていることになる。

なぜこの両者を合わせるのか?この両者が同一であるケースが多いのである。

WeiboとWeChatモーメンツの最大の違いは、「オープン」か「クローズ」かという点。不特定多数が自由に閲覧できるのがWeiboであり、フォローした相手にしか公開されず、フォローしている人物の投稿しか見られないのがWeChatモーメンツ。

そしてWeChatでフォローしているのは家族や友人(同級生)、同僚、仕事のパートナー…など、実際に存在し、かつ直接会ったことのある人物が大部分を占めている。
そのモーメンツで投稿される商品の使用感はすなわち、実在の人物、面識のある人物が実際に使った感想である確率が極めて高く、職場や友人との直接的なクチコミに近い感覚でいるのである。

こうした理由から、WeChatのモーメンツでは時折「万能的朋友圏(万能なるモーメンツよ…)」というセリフとともに、何か知りたいコト(仕事や商品について)の質問投稿がされることがある。

これは「友人・知人の集まるスペースで、より信頼性の高い情報を集めたい」という意識のもとに行われるものである。

上海、無錫でインタビューを行た際、20代、30代に関わらず、全員が「最終的に購入する際には“実際に使ったことのある人”の意見を参考にする」と回答しているが、特に敏感肌といった悩みを抱える女無錫の20代女性は「リアル店舗や同じ悩みを持っている人が試してからでないと買えない」と話す。

「中国は日本以上のネット社会。だからWEB上の訴求を!」というのが一般常識になっており、もちろんそれは間違っていないのだが、それは「実体験を軽視している」というわけではない。
ネット上で数多くの情報が出回っているからこそ、中国の消費者はその確認をオフラインで行う必要に駆られているともいえるだろう。

それに伴い、中国では消費者から見たKOLの存在価値も徐々に変化している。それについては次週以降、別のコンテンツで紹介しよう。


▼参考記事
中国KOL分析~口紅のカリスマ・李佳琦はなぜウレる?


別れる個性。求められる、消費者別の情報発信

さて、上記の内容は比較的普遍的にみられる消費意識だが、インタビューをしてみると、そうした情報を受けてから購入するまでの過程で個性が分かれる。

インタビューをベースに簡単にその特徴を上げてみよう。

「多数の情報ソース、クチコミ取得派」

上海でAPP運用仕事についている馬さん(20代)は、仕事柄APPの活用に長けている。そのため、小紅書(RED)を活用して「悩み検索」→「上がってきた商品検索」→「ネット店舗のクチコミチェック」→「オフラインでリアルクチコミ収集」→「ネットで購入」という流れを活用している。
いわば「多チャネル情報収集派」といえ、日本のメーカーがイメージしている消費パターンに近い存在で、WEBやSNSでのプロモーション、特に実体験型の情報を多く拡散することで取り込むことができるだろう。

店舗重視の倹約派

しかし、同じ上海の20代でも、証券会社に勤めるYaさんは、「あまり化粧品に興味が無く、時事・経済ニュースしかチェックしていない」という、「仕事充実派」。
化粧品に関しても「屈臣氏(ワトソンズ)」で購入したブランドだが、あまりその名前も覚えていない。化粧品を購入する際に小紅書などのSNSをチェックはするものの、こうした簡単に購入できる商品を手に取ることが多いという。
そのため、こうした消費者に場合にはドラッグストアの店頭でのプロモーションなどの方が目に入る確率は高くなるだろう。

成分分析しっかりスマート派

また上海で2歳半の子どもをもつ30代の姚さんの場合は、「商品の安全性」重視で、人気商品の成分分析を行っているAPPを活用して、化粧品や子供用クリームなどを購入しているという、「安全性重視・分析派」。
前出のYaさんもそれに似ており「成分について化学的な効果が立証できる情報」を重視すると回答している。
こうした場合には、メディアリリースなどを活用し、製品情報だけではなく、成分知識・効果・研究状況などのアカデミックな情報を発信していく必要がある。

肌ケアこだわりイメージ重視派

さらに日本生活経験のある30代女性・劉さんは「日本のスキンケアがいいことを知っている。「日本ブランド好感度派」。
同時に肌ケアに関して幅広い知識を有しており、そのために「昼はエリクシール、夜はCPBと、使うブランドを分けています。夜の方がより効果的に吸収できるので」と、コダワリを見せる。
より良いスキンケア手法やその知識を求めているため、商品の紹介だけではなく「より効果的な使用法」や「多ブランドとあわせた使い分け」などの情報が喜ばれそうだ。

 

「上海の消費者」といっても、普遍的に共通する部分もありながら、その細部で個性が現れる。今回は4パターン程度紹介したが、消費者の数だけ刺さるポイントが存在していると言っていいだろう。