「〇線都市って何が違うの?」 中国都市ランキングの読み解き方 後編 ~違いを体感するための視察のススメ~
世界的な有名化粧品ブランド、またT-MallやJD.comなどの大手ECプラットホームも、上海、北京といった一線都市から新一線、二線都市へと市場を広げている。
地方都市の経済成長推進という国策も相まって、多くの市場で「下沈市場(地方都市市場)」開拓が進められているのである。
日本の企業も、更なる市場の開拓、市場競争での生き残りをかけて、こうした一線以外の都市を視野に入れておきたいところだ。
前回はその目安となる中国都市ランキングについて解説をしたが、こうした中国の都市における発展・消費の違いは、ランキングを眺めていても理解を深めることはできない。
後編ではこうした違いを「知る方法」について紹介したい。
▼前編はこちら
「〇線都市って何が違うの?」 中国都市ランキングの読み解き方・前編
まずは中国のオープンデータ活用から
中国の都市の状況を把握するパラメータとなるのが、その土地の経済状態。
中国ではこうした各都市の経済状態については「中国国家統計局(国務院管理)」が統計を行い、毎年「中国統計年鑑」という形で発表している。
これは中国全体だけではなく、省や直轄市、自治区レベルからその下の地級市など、地方都市のデータも、各地方に存在している統計局出先機関によって発表される。
いわば公的なデータである。
タイミングとしては毎年3月上旬ぐらいには省レベルのデータが『201〇年〇〇省国民経済和社会発展統計広報』として、データのサマリーが発表されるので、そこから拾うことができる。
【参考】上海市統計局ホームページで公開された2018年の可処分所得
この発表にはもちろん1年間のGDP、1人当たりのGDP、その前年比などが発表されている。
その中でも、中国に商品を販売したいという企業であればチェックしておきたいのが、
- 人口
- 平均可処分所得
- 社会消費品小売総額
といった、消費に関するデータである。
「可処分所得」においては、日本でも統計や調査がなされるため、理解はしやすい。つまり、収入から固定支出(税金、ローン、保険、学費など)を除いた、自由に使える金額の事。
もちろんこれが大きければ、購買意欲も高まる。
【参考】上海市統計局ホームページで公開された2018年の可処分所得
ではもう一つの「社会消費品小売総額」とは?
日本ではあまり統計されていないのだが「卸、小売り、宿泊、飲食などの各業態が個人・団体に直販した消費財やサービスの総額」であり、その都市の消費能力を示す指標となっている。
【参考】上海市統計局ホームページで公開された2018年の社会消費品小売総額
近年は全国数値や大都市では「オンライン消費」と「オフライン消費」の金額も発表されているので、全体消費の何パーセントぐらいがオンライン消費かというのも把握できるようになっている(都市による)。
こうしたデータ、各省内における第3、第4都市ぐらいになると、網羅範囲にばらつきが生じるのであるが、基本的にはGDP、社会消費品小売総額といった重要数値は発表されている。
ただ問題は、これは1年単位のデータが発表されているので、推移を見たい場合は各都市ごとのデータを開いて確認していく必要がある(地元メディアがネット記事として公開するため検索は容易)。
こうしたデータをターゲットとしている一線都市や新一線、二線都市を並べて計算してみると、「平均可処分所得は一線都市に及ばないが、単純掲載で1人あたりの消費額を出してみると、あまり変わらない」といったことが見えてくる。
【参考】2018年一線都市、新一線都市の社会消費品小売総額の比較
出所:中国国家統計局の発表を基に中国トレンドExpress編集部にて作成
商業施設で何を見よう?
ここからは筆者の体験を含めた中国の都市を訪問する際のチェックポイントを紹介しよう。
多くの消費財メーカーが訪れるのは商業施設、つまり百貨店やショッピングモールといった小売店、またそれらが集中している商圏だろう。
こうした百貨店視察において「品揃え」や「価格」、また「人通り(にぎわい方)」などを見るケースが多い。
もちろんこれは競合やその土地のブランド進出状況を見る上でも重要な情報だ。
しかし、「買い物以外の目的で商業施設に行くことが多い」中国の消費者の動向を知るためには、もう少し注意深く見る必要がある。
百貨店のチェックポイントとしては「レジ」をおすすめしたい。
中国の百貨店ではフロア単位で「収銀台」という支払いの場所があり、消費者はそこで支払いを行うことになる。
ここを見ていれば、本当に消費者が購入しているのか、ただ単に見に来たのか、それとも夏場エアコンが効いた店内に涼みに来ているのかということが見て取れる。
例えば化粧品エリアで、テナントで商品を試している人が多くてもレジに人がいないのであれば、そので「買い物をしている人」は少なく、百貨店で商品を確認して別の場所、例えばECなどで買っているのでは…といった推察ができる。
そして、この状況を一線都市の百貨店と二線都市の百貨店で比べてみるのもよいだろう。
視察をより有効に活用するために~インタビュー、そして雑談のススメ
都市の状況は目で見ると同時に、耳で確認することも極めて重要である。
もちろん、街中を見ているだけでも、歩いている人たちのファッションなどによって、違いを把握する事はできるだろう。しかしそれをより深める努力をしていかなければ、市場を理解することにはならないのである。
特に海外市場においては、目で見てくることに重点が置かれてしまいがちだが、商品を販売することを考えれば、見るだけにとどまっていては、その情報は大きな意味を持たない。
もっともよい方法は、当該地の消費者と「1対1」でのインタビューを行う機会を作るということだろう。ターゲットとしている消費層に近い消費者と、落ち着いた場所で実際の消費動向などについて話を聞く。その情報とデータ数値とを合わせることによって、より深く中国市場を知る事にもなり、自社にとっての強力な武器になるはずだ。
とはいえ、こうした調査には手間がかかる。
どうしても消費者に個別にインタビューなどができないのであれば、宿泊しているホテルの従業員と雑談してみる、というのも手だろう。
中国の一定レベル以上のホテルではサービスも向上しており、コンシェルジュなどできちんと対応してくれるケースが増えている。
「週末にどういったスポットが人気なのか」
「いま市内で話題になっているのは?」
「この街の人って、みんなどこで買い物しているの?」
など、こういった雑談ベースの話に答えてくれるケースも多い。
また都市によるが、スターバックスの店員は気さくな人が多く、忙しくない場合であればちょっとした会話にも応じてくれる事があるので、活用してみるのもいい。
重要なのはその都市を見ることの明確な課題、そしてそれに関した情報を「あらゆる方法で取得する」という意識である。それが無ければ、無意味な労力を費やすことにもなりかねない。
そういう意味から言えば、中国視察も真剣勝負。今まで行ったことの無い都市、そしてその都市の消費者の生活に突っ込む覚悟が決め手と言えるだろう。