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「無条件返品」はどこまで許される? Taobaoアパレル返品騒動に見るEC業界の新たな課題

先月、中国トレンドExpressでは「Taobaoで気軽に買って、家で試して、気に入らなければ返品」といった消費者の声を紹介しました。

これは「7日間無条件返品可」という消費者ルールを上手に使ったケースで、Taobaoの売り手(主に小規模や個人)側も消費者のサービスとして活用もしているものです。

しかし近日、この制度を利用したある消費者の「行き過ぎた活用」がSNSやメディアで議論を呼んでいます。今回はその話題を呼んだ議論とECにおけるカスタマーサービスを考えてみたいと思います。


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買って、着て、旅行に行って、写真撮って、返品?

事の発端は5月、「五一労働節」後にアパレルを販売するTaobao店主・李さん(仮名)がメディアで紹介したある嘆きでした。

「休暇前に18着の商品を買い込んだ客が、その服を着て旅行に行って、帰ってきて返品!」というものでした。

 

詳しい状況は以下の通り

 

4月25日、李さんのTaobao店のお客さん黄さん(女性・仮名)は、18着、合計4600元余りの服を購入。

その後、休暇後に黄さんから「全部気に入らなかったから返品したい」という申請がTaobao側に届きます。しかし、WeChatを交換していた李さんが黄さんのモーメンツを見てみると、黄さんは買った服を着てチベットへと旅行、美しい景色の前で、いかにも楽しげに撮影した写真を何枚もアップしていました。

 

「旅行に着ていくほど気に入っているなら、なぜ返品?」、さらに「すでに7日の返品期間を過ぎている」ことを理由に、李さんは返品要求を退けるようTaobao側に申請をします。

しかし、黄さんはすぐに「再度の返品要求」をTaobaoに対して申請。

最終的にはTaobaoカスタマーサービスがこの2人の間に入りましたが、Taobao側の判定は「買い手(黄さん)側の要求を認める」という物でした。

 

その結果に満足のいかない李さんは、やむなく事の次第をメディアへ連絡。メディアが李さん、黄さんへの取材の模様を基に報道したことで、一気に注目を集めることになりました。

 

メディアに対して黄さんは悪びれることは一切なく「誰だって試着ぐらいするでしょ?気に入らなかったから返品しただけ。その何がいけないの?」。

この態度が報道され、黄さんへの批判が巻き起こりました。

食い違う両者の主張とプライバシー

とはいうものの、この両者の主張には若干の食い違いが生じていました。

 

店主である李さんは「18着すべての返品を申請してきた」

しかし買い手である黄さんは、自身のWeibo上でメディア取材での態度が悪かったことは謝罪しつつ、報道されている内容には事実誤認が含まれていると指摘。「店舗側がメディアに情報を流した時点ではすでに8着の支払いをしており、すでに交渉は終わっていた。その後、店主の友人と名乗る人たちから自分を罵る電話を受けていた」と主張しています。

 

実際に、店主が黄さんの個人情報をネット上で公開したことにより、「そんな不道徳なことをする消費者を懲らしめる」と称する人たちが、黄さんに匿名で電話やショートメッセージなどを繰り返していたようです。

 

ただ店主である李さんは「口頭では支払うと言っておきながら、Taobao上での返品申請を取り下げてない」と主張、攻勢をゆるめませんでした。

 

最終的には黄さんはこうした“ネット上での暴力を受けた”ことを示しつつ、「旅行の時に返品するつもりだった服を着て写真を撮影した」ことを認め、またそれが「許されるだろうと思って行った軽はずみな行為であったこと」をWeibo上で公式に謝罪。改めて代金を支払う意思を示しました。

 

5月11日、TaobaoはWeibo上の公式アカウントで、本件の解決を報告するとともに「個別案件であり、Taobaoの保証する7日間無条件返品サービスには影響しない」と明言。さらに消費者だけではなく「売り手の権利も守る」旨を述べ、一応の収束を見ました。

ネット上では賛否両論巻き起こるも

さて、ようやく終息したこの騒動でしたが、ネット上でも多くの議論が巻き起こりました。

 

一部のSNSユーザーは「返品したいというのは違法じゃないだろ」、「タグが付いているんだったらいいんじゃない?」とか「気に入ったら買う、気に入らなかったら買わない。それも消費者の正統な権利だろ」といったように、黄さんを擁護する声。

また「私も買って、試して、返品、っていうのはよくやるわ。7日間以内でね」といった、制度をじょうずに利用する声などが上がりました。

 

しかし、やはり多かったのは「それ着て、旅行に行って返品はやりすぎだろ?」、「これって営業妨害に近くないか?」など、黄さんのモラルに対する批判が圧倒的でした。

さらには「弁護士」というユーザーも「買い手には権利があるが、それ以前に道徳観を持った消費を」と、権利を過度に利用した行為には警鐘を鳴らしています。

 

近年は中国でも多方面での「モラル向上」が訴えられていますが、今回の一件は「買い手のモラル」を考えるきっかけとなったようです。

消費者権益も重要だが、同時に保護すべきは…

こうした背景には中国の消費変化とECの急速な拡大が無関係ではありません。

 

そもそも、中国では1990年代から「消費者権益意識」の普及を訴えてきました。その理由はメーカーには「正しいモノづくり」、小売には「正しい販売」を習慣づけることが目的にありました。

 

しかしTaobaoが登場したばかりの時期には、そうした消費者権益を無視した交易が多く、問題視されました。

そのイメージを払拭し、ユーザーを増やす目的でTaobaoでは消費者権益保護をより強く打ち出し、「7日間無条件返品」を認めること、そして消費者から商品代金を言ったん預かり、消費者が商品を確認したのちに店舗側に支払うという、Alipayのシステムを導入。

消費者の安心を勝ち取り、ユーザーを増やしたという経緯があり、消費者側も「試着気分での購入」ができるようになったのです。

 

ただ気軽に返品がしやすいアパレル製品では、消費者が購入後にそれを着て外に出たり、イベントに参加したりしてから返品するといった、「試着の域を超えた」利用が発生しているのも事実のようです。

Taobao上でもアパレル店舗は多いのですが、こうした消費者の行為は「中国でのアパレルの売りにくさ」の一因にもなっているとか。

 

中国での生活に欠かせなくなっているTaobaoですが、消費者の権益保護を強化したがために、かえって売り手の権利が侵害されつつある。そんな新たな課題を抱えることになりそうです。