越境EC④集客AtoZ~越境ECに効くプロモーション~
越境ECシリーズ第四弾です。
越境ECプラットフォームでのプロモーションを手掛ける株式会社ルイスマーケティング(上海)副総裁の沢登秀明 様より、越境ECでのプロモーションの重要性についてお話をうかがいました。(聞き手:トレンドExpress編集長 大上/インタビュー日程:2017年4月)
株式会社ルイスマーケティング(上海) 副総裁 沢登秀明様
「売りたい」ならば戦略を
―本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、越境ECで集客のためのプロモーションをしている日本企業は多いのか少ないのか、といったところからお聞かせいただけますか?
よろしくお願いします。プロモーションについては、インバウンド需要があったブランドですと知名度もありますし、それなりにやっている、というのが現状ですね。
もともと知名度のないような企業ですと…PR予算がなくて、中国でのマーケティング活動にもお金は割けない、というような声もよく聞きます。ただこれは絶対いえるのですが、「ただ中国にものが売りたい」というだけではうまくいきません。
―では、限られた予算、という現実の中で、効率的な投資方法はあるのでしょうか? 越境ECでのマーケティング活動を、全体像からお教えください。
まず、ECというと、すでに確立されたモール型プラットフォームを利用する方法と、自社サイトを立ち上げる方法がありますよね。中国市場に進出する場合にはモールを利用するのが一般的です。様々な理由から、自社サイトのPRは費用対効果が悪いということが理由です。ですので、本日はモール型プラットフォームでのプロモーション活動について解説したいと思います。
モール型に出品する場合も二種類に分かれます。自店舗の出店という形が一つ。あとは、既に店舗運営しているところへ製品を卸す形です。前者を選ぶか後者を選ぶかで、それぞれPRのコツも変わってきます。
ただいずれにせよ、費用対効果が良く、売り上げに直結するモール内の集客が要、という点は一緒です。
知名度のないものは買われない、活用すべきはSNSとKOL
―モール内の検索で自社の商品が上位に表示されれば、それで売り上げにつながるということになるのでしょうか?
検索で上位にあればそれだけでいいかというと、そんなことはありません。有名なもの、知名度の高いものは買われやすく、反対に、名前の知られていないものは手を出してもらえないですから…これは自分が物を購入するときを想像してもらえばわかると思います。
中国のECサイトに特徴的な点としては、モール内には商品があふれかえっていて、本物偽物の見分けもつかないので、なかなか手に取ろうと思ってもらえないということが挙げられます。なので、SEOに加えてブランディング・露出の確保は欠かせないと思います。
―知名度を上げるためにはどんな方法がありますか?
まずはリスティング広告ですね、モール内で出稿します。単価は安くないですが、必要なアクションです。
ちなみにリスティング広告はモール内の店舗に出品する場合は基本的には主体的には行えないので、その点が出店と出品の違いの一つですね。出店している店舗に、どの商品をリスティング広告に載せるかの決定権があるわけですから。ただ、掛け合う余地が残されている場合もあるので、ケースバイケースと言えるでしょう。
―認知獲得にはリスティング広告以外にはどういった手法がありますか? SNSにはどんな可能性があるとお考えですか?
それぞれのサイトに特化した広告・プロモーションの手段があります。例えば天猫国際(Tmall.HK)なら微博、WeChat、ショートメッセージによる告知、ですね。ショートメッセージは個人情報保護の法律があるので、購入履歴のある方や会員に送ります。微博の広告プランはかなりいろいろあるのですが、認知が獲得できるレベルとなると…値段が結構張りますね。
拡散を狙ったり商品の良さを伝えるためには、KOLが効果的だと思います。ソーシャル(メディア)の効能は基本的に話題づくりだと思うんですね。ここ(SNS)は話題づくりをするところ、と理解して利用する姿勢が大切です。ソーシャルのいいところは、爆発力だと思います。
―知名度を上げる→モールへの集客→購入してもらう…という各フェーズを意識することで、各過程に最適なPR施策が打ち出せるのですね。
その通りです。WeChatやショートメッセージはモールへの集客が目的です。一方で微博やKOL施策は、売り上げよりは会社の信頼度、イメージの樹立のために使います。
売り上げ(刈り取り)は別のフェーズです。ブランディングなしに売り上げは見込めないので、まずは集客やブランドの確立につながるアクションに投資することが必要になります。
ただ本当に予算がないのなら、ソーシャル上の小さな拡散を狙うよりは、モール内での広告、PR施策にお金を使うべきです。
シンデレラストーリーを作った「ナンバーワン」のラベル
―もともとは、知名度がなかったのに売れた…という成功ストーリーはありますか?
ありますね。ご紹介するケースは、年間1億円弱の広告費予算がありまして、ちょっとどんなものかは申し上げられないのですが、個人ベースでの淘宝ではそこそこ売れている商品だったんですね。すでに越境ECに商品は出していて、その運営のための費用は今回は含まない話です。
最初は、ECモール(天猫国際)の中の店舗(有名ドラッグストア旗艦店)に商品を出品したんです。天猫国際に直接旗艦店を出店したいという希望もあったのですが、最初はモール側から断られてしまいました。ですが徐々に有名ドラッグストア旗艦店に出品した商品が売れるようになり、最終的には当初希望していた天猫国際に旗艦店を出店しています。
―知名度を上げる施策は何をとられたのでしょうか。
このケースでは、WeChatメディアを使いました。この効果として、プラットフォームでいえば、天猫国際と小紅書で売れるようになりましたね。
また知名度の向上に伴い、ソーシャルバイヤーやインバウンドでも売り上げが上がりました。最終的には広告投資額を回収できるほどの売り上げとなっていると聞いております。
―1億円弱の広告費で認知を獲得し、結果として広告費用が回収可能な売り上げを手に入れたというわけですね。マーケティングにおける認知獲得の重要性を改めて認識しました。
―ほかに知名度を上げた意外な施策はありますか?
意外な施策…というよりは、期せずして得られた効果の例をご紹介します。
小さい会社でも認知獲得に成功した例に、健康食品業界があります。この業界の広告戦略は独特で、ご存知と思うのですが日本の健康食品はネット通販や折り込みチラシ、新聞広告での宣伝と刈り取りが中心なんですね。
主流ではない小売店流通中心で販売していると、同じ業界でもその存在を知らないこともあるくらいなんですが、今や中国市場を研究していればご存知の「山本漢方」さんもこういった、日本ではあまり有名ではなかったが中国で爆発的に売れた企業です。
山本漢方の商品がどうして中国人のトレンドとなれたか、ご存知ですか? 実は、商品パッケージでうたっていた「日本のNo.1」といううたい文句があって、それが中国人に刺さったんです。
―中国人の心を惹きつける「必殺ワード」が「〇〇No.1」ということなのでしょうか。
おそらく、心を惹きつけるのに有効な一つでしょうね。「このカテゴリでNo.1!」、のような表現でも響くと思います。ただし、「No.1」という言葉を通常の広告に使ってしまうと、中国の新広告法に違反してしまうので注意が必要です。
―つまり、中国人の感覚でプロモーションを打っていくこともまた大切な点なのですね。
まとめ ~信頼を土台に、さらに注目集める施策を
―ご紹介いただいたように以前と比べ変化し始めている中国市場ですが、そこで物を売っていく日本企業にはどんなアドバンテージまたは不利な点があるとお考えですか?
信頼というアドバンテージは大きいです。日本の製品というだけで「信頼できる」というブランディングができあがっています。
不利な点としては、価格競争では勝てないという点ですね。日本では安いと感じられる商品でも、関税や為替の影響で中国では高いと感じられてしまうケースが多いです。そういったときに、高い価格であっても選んでもらえるブランド力があるかどうかが問われます。
―中国人消費者に選んでもらうためのブランド力はどのように培うべきですか?
「海外の商品と闘わなければいけない」事実を認識し、「お金」か「話題性」で注目を集めることが必要です。
日本企業はもともとブランドづくりがあまり得意でないと認識しています。日本の歴史的背景からいうと、日本の商品は他社の真似からのオリジナル化が多いですし、細かいところの追及で付加価値がついていているものも少なくないと思います。更には日本では「こんなに高品質なのに安い」という付加価値で勝負している商品が多いと思います。越境ECに進出するとこの「安い」という付加価値が役に立たないので、その製品のブランド力が必要になります。
オウンドメディアの普及を手法として考える方もいらっしゃるかもしれませんが、「ターゲットユーザー」にリーチするという目線が欠けてしまっていると思います。流行りに乗った人に広告してもらうだけでも足りません。
―他に中国市場で日本企業が忘れがちな、気に留めておくべきことはありますか? 進出を考える日本企業にメッセージをお願いします。
中国市場では「同じ土俵で戦う競合は海外の製品」だとしっかり認識することです。
中国のECで他国の製品と闘うことは、メジャーリーグに出場するようなものです。予算が追い付かないとしても、現実を認識することから始めてもいいと思います。投資額としての目安としては年間3000万くらいは最低必要だと考えています。
―本日はどうもありがとうございました。
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