中国最大のECイベントW11(双十一)の市場環境と打つべき対策(1) ~この知識がW11勝利への「神器」、基礎からおさえる中国ECでの戦い方~
成長を続ける中国EC市場。1年のうち最大のイベントとなるW11(ダブルイレブン。中国語では双十一、シュアンシュイー、11月11日の独身の日のお祭りと名うち、ECサイトで開催されるセール)までいよいよあと2か月弱となりました。
2016年のW11当日売上はなんと約3兆円にものぼりましたが、2017年の市場環境はどうなっているのでしょうか?
今回は、2016年の市場環境を振り返るとともに、今年の見通し、参入する際のポイント・落とし穴、そして取るべき対策についてお届けしたいと思います。
本編は、株式会社トレンドExpress代表取締役社長 濱野智成へのインタビューを中心に、関連資料の内容と合わせて再構成しています。文中に関連資料ダウンロードURL(無料)もございますので、合わせてご覧ください。
ユーザーが越境ECを選ぶ理由と今年売れる消費の特徴とは
まずはW11について、改めて間単に説明しておきましょう。
中国では11月11日は1が4つ並ぶため「独身の日」と呼ばれ、1990年代に独身者同士が集まって祝ったり、パーティーを開催したりするという文化が広まりました。
2009年には、中国EC大手の阿里巴巴(アリババ)社の運営する天猫(Tmall)が、この「独身の日」の文化を利用して「自分のための買い物を」というコンセプトでECでの大量買いをしようというキャンペーンイベントを仕掛けました。これが現在EC各社の参加する一年で最大のセールの始まりと言われています。
天猫が仕掛けたW11のキャンペーンでは、自分が商品を購入するとWebページで売上がカウントアップされ、自分の購買活動がECサイトに可視化されるなどの工夫が多く、こういった消費者がつい買ってしまいたくなる仕掛けがW11のイベントを定着させたのではないかと考えられます。
昨年2016年も大いに盛り上がりました。冒頭でお伝えしたとおり1800億元(約3兆円)の売上を記録し過去最高となりました。内訳をみると「天猫(Tmall)」を運営するアリババ社(阿里巴巴)の一人勝ちの状況で、当日売上は1207億元に達しています。次いで京東(JD.com)が401.9億元、蘇寧易購は38.9億元の売上です。
では、このセール期間に越境ECで期待される売れ筋商品はどのあたりでしょうか?
まずは消費者が越境ECを利用する「理由」を見てみます。
出典:iResearch 2016 China’s Cross Border online Shoppers Report
中国人消費者は越境ECで品質保証や価格、購入ブランドの希少性を重視し商品を選ぶ傾向にあるということがわかります。
人気商品は、化粧品・美容関連用品、ベビー用品、アパレル商品と続き、比較的低単価の商品がメインとなっています。近年は多少変化も見られ、自分のために高い買い物をしようとする傾向も出てきています。しかし、越境ECでは一度に購入できる上限金額が2,000元(約3万4,000円)と制限されているため、今後も低価格帯の商品購入に集中する傾向は大きく変わらないと予測されます。
選べ正しい販売戦略!過去のケースに学ぶ
W11の歴史、ECサイト、越境ECで予想される消費動向を確認したところで、続いてW11の戦略立案に役立つ情報をご紹介していきます。
まず1つ目、現状のECサイトで見られるW11の戦い方です。戦い方は大きく二つに分けられます。一つ目は「PR促進型」、二つ目は「在庫処分型」です。
「PR促進型」は新商品や一押しの商品を消費者に知ってもらうため、告知やブランディングを目的に利用するパターンです。W11では大量買いが見込めるため、消費者が新製品を購入する心理的な障壁が低いと期待できます。まずは商品をお試ししてもらう場と考え、PRの場として活用していくというものです。
「在庫処分型」はその名の通り、売れ残った在庫を処分することを目的に、安売りをして販売数をかせぐことを重視する手法です。あまり有名ではないブランドや、食品など消費期限があるものがこちらを採用するケースが多くなっています。
「在庫処分型」は消費者に買ってもらえるまで安くすればよいという点で前者よりも手の出しやすい手法のようにも見えますが、結果として中国国内で安売りや低品質というブランド価値を貶める結果に繋がることもありますし、返品も多く発生します。
そのため現在はPR促進型の割合が増えつつあります。日本企業はその商品の高品質さから「PR促進型」に注力すべきであるといえるでしょう。
「予約販売」で10月から始まる戦、終了後も手を止めてはいけない理由とは?!
「PR促進型」を進行する場合、いつ何をするべきなのでしょうか? スケジュールを組むため、続いて、W11前後に起きるであろう出来事を押さえておきましょう。
例年、W11前の10月中旬には予約販売が開始され、在庫数が控えめなメーカーなどは10月中に在庫切れが起こることがあります。
予約販売とは、天猫(Tmall)にて提供されているサービスで、商品をカートに前金制で取り置きすることができる仕組みです。このサービスはユーザーにとっては便利ですが、売り手にとってはリスクとなる面もあります。この機能のおかげで、ECユーザーが10月中にお金を使い果たしてしまったり、予約して気が済むのか11月1日から10日までは購買の動きが鈍ってしまったりすることもあるようです。
このような状況を利用して、たとえば大手小売ではあえて在庫切れを実現し、W11本番にプラットフォーム側から要求される値下げを正当な理由をもって避けることに成功しているとも言われています。事前に何が起こるのかを把握している「知識」でもって市場開拓に成功している賢者といえるのではないでしょうか。
W11本番を過ぎた後には、中国ECサイトでは「ブラックフライデー」や「双十二」(12月12日のECサイトセール)という販促イベントが控えています。消費意欲が継続するのかという疑問もわいてきますが、イベント好きな中国人、そこはきっちり盛り上がります(さすがにW11直後は購買が落ちますが)。事実、W11後も手を止めずにブランディングやプロモーションに注力するブランドも増加しているようです。やはりここも先に怒ることを知識として備えているかどうかが、戦略の選択に影響を与えています。
以上、W11の歴史や販売戦略、そして前後のスケジュールを簡単に確認しました。戦略立案に有効な「知識」をお届けできたのではないかと思います。
続く(2)では、W11における落とし穴、注意点をお伝えするとともに、それらを踏まえたうえで有効なプロモーション施策をご紹介します。お楽しみに!