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春節間近。中国人観光客人気スポット再確認 地方創生までの道のりはいかに?

間もなく春節。夏休み、国慶節と並ぶ中国からの訪日シーズンである。今年はオリンピックを控えながら、年初になって新型肺炎という不安材料も伝えられている。

しかしながら、2020年も中国からの観光客はインバウンド消費の中核をなすことは間違いない。

そんな中国訪日観光客は今、どんなスポットを目指しているのだろうか。トレンドViewerの「行った」ランキングから見ていこう。

クチコミデータで見る人気スポット振り返り

まずは、中国の観光地でどんなスポットが人気なのか、その推移を見てみよう。トレンドViewerの「行った」ランキングを下半期ごとに集計しなおしてみた。

そのランキングが以下の表である。

【表】トレンドViewer各年下半期「行った」ランキング

  2019年下半期 2018年下半期 2017年下半期 2016年下半期
1位 沖縄 沖縄 沖縄 沖縄
2位 明治神宮 札幌 札幌 心斎橋
3位 札幌 由布院 清水寺 清水寺
4位 由布院 奈良公園 奈良公園 道頓堀
5位 天橋立 明治神宮 Ginza SIX 札幌
6位 ドン・キホーテ ドン・キホーテ ユニバーサル・スタジオ・ジャパン 銀座三越
7位 SUNTORY山崎蒸溜所 渋谷 鹿苑寺金閣
8位 AKBカフェ 清水寺 伊勢丹新宿 祇園
9位 下関 鹿苑寺金閣 築地魚市場 奈良公園
10位 観月橋 別府温泉 大阪城 黒門市場
11位 東京スカイツリー 京都駅JR伊勢丹 通天閣 浅草寺
12位 付知峡 大阪城 伏見稲荷大社 秋葉原
13位 嵐山 ユニバーサル・スタジオ・ジャパン 明治神宮 渋谷
14位 忍野村 富士山 立川 ドン・キホーテ
15位 香川 慈照寺銀閣 東京タワー 富士山
16位 清水寺 那須 富士山 伊勢丹新宿
17位 厳島神社 新橋 有楽町マルイ 表参道
18位 ユニバーサル・スタジオ・ジャパン 築地魚市場 大阪駅 ヨドバシカメラアキバ
19位 箕面 池袋 厳島神社 東大寺
20位 銀座三越 芦屋 鹿苑寺金閣 嵐山
21位 新橋 宇佐神宮 東京駅 難波
22位 京都四条 下関 別府温泉 池袋
23位 釧路 通天閣 三町(高山) 博多駅
24位 黒部ダム 修善寺 富山 ユニバーサル・スタジオ・ジャパン
25位 あべのハルカス 観月橋 銀座 東京スカイツリー
26位 伊根の舟屋 白い恋人パーク SUNTORY山崎蒸溜所 大阪城
27位 鹿苑寺金閣 難波 難波神社 アメ横
28位 金引きの滝 難波神社 京都三条 銀座
29位 松坂屋 資生堂パーラー 難波 銀座松屋
30位 名古屋城 河口湖 慈照寺銀閣 マツモトキヨシ

上位、「沖縄」や「札幌」は安定している。

ショッピングスポットとしては「ドン・キホーテ」が独り勝ちの様相を示している。実際には多くの百貨店に足を運んでいるのだが、中国消費者にとってはあまりSNS上にアップする価値は薄らいでいるのか、賑やかでお手頃価格で数多くの商品を購入できる「ドンキ」のクチコミが上がっている。

実際に中国消費者の関心が、百貨店で購入できる商品からドラッグストアやコンビニなどで販売されているような商品にシフトしているという点も挙げられるだろう。

より新しい場所へ。地方スポットが上昇中

さて「行った」クチコミ、下期の週次ランキングを眺めていると、新しく上位に上ってくるスポットがある。

 

例えば「釧路」である。

北海道といえばインバウンド、特に中国からの訪日観光において勝ち組である。札幌や函館、また日本でも人気の美瑛。さらには中国資本の大型リゾートのあるトマムなどと、道央、道北に寄っていた。

しかし2019年に入ってから、徐々に「釧路」が上がってきており、釧路湿原や阿寒湖、屈斜路湖などの道東へと広がっていることが下記のグラフを見るとわかる。

【グラフ】札幌と釧路の「行った」クチコミ件数推移

初出は2017年の夏ごろだが、徐々にクチコミを積み重ね、現在は一週間で1000件と札幌市の1500件/週に届くレベルになっている。

 

またもう一つ、キーワードとして順位が上がっているのが「黒部ダム」である。こちらも2019年10月ごろから上昇している。

【グラフ】黒部ダムの「行った」クチコミ件数推移

日本では小説と映画にもなった『黒部の太陽』を連想するが、「立山-黒部アルペンルート」への人気の影響である。

冬場のスノースポーツは中国でも人気だが、夏場などに足を運ぶ中国消費者も増えているらしく、黒部ダム上で写真を撮る姿がSNS上にアップされている。

 

さらに、中国訪日観光客の京都観光にも新たな動きがある。その「天橋立」と「伊根の舟屋」も注目ワードだ。

【グラフ】伊根の舟屋と天橋立の「行った」クチコミ件数推移

以前は「清水寺」、「鹿苑寺金閣」など定番の観光スポットが人気だったが、徐々にその行動範囲が拡大、中国消費者にとっての「裏京都」ともいえる2スポットのクチコミが上昇している。

小紅書、抖音(中国版Tik Tok)、多チャネルでの情報収集

こうした地方スポットへの波及、人気上昇の背景にはやはり中国における日本情報の充実化、という要因がある。

 

中国の消費者、特に80年代後半から90年代に生まれた若い世代に話を聞くと、最も頼りにしている情報は「知人、友人、同僚からの直接紹介」によるものである。

しかし、そうした情報は今や、直接的なクチコミにとどまらず、ネット、SNSによってかなり広範囲にまで拡散される。

さらには「日本在住者」によるスポット紹介は、中国に居ながらにして日本現場の情報を各テクできる手段として人気が高い。

 

注目されているのは体験共有型SNS「小紅書(RED)」、そして現在全世界で人気の「抖音(Douyin 中国でのTikTok)」といった新型のSNSである。

 

小紅書(RED)では主に「おすすめスポット」や「買うべき商品」、また「交通マニュアル」などの基礎情報が、「抖音(Douyin)」ではショートビデオによる実景、よりリアルな雰囲気などを把握するのに利用されている。

 

新たに人気になっているスポットに共通するのが、このSNS上にアップされる最大の理由が「フォトジェニック」であること。

例えば黒部の峡谷、釧路の雪景色に白鳥や丹頂鶴との写真など、多くの写真がアップされており、多くの消費者の興味を引いている(多くがプロ用のカメラで撮影されている)。

人気向上も課題が。どうお金に換えるのか。

新しく人気が上昇している観光スポット。インバウンド初期の「東京―大阪」ゴールデンルートから地方へ向かうという期待通りの結果が訪れているといえるだろう。

 

しかし課題もある。それは「どうマネタイズするか」、もっと平たく言えば「現場にお金を落としてもらうか」だ。

前述のように、新たに人気のスポットで中国消費者に人気なのは、こうしたスポットで写真を撮り、SNS上にアップすることであるが、そこにはまったく費用は発生しない。

 

お目当ての商品を購入するのは東京や大阪、空港の免税店となり、さらに宿泊も都市部になる。そのため、観光客は来るものの、観光スポットそのもの、周辺の町には経済効果があるとは言えないような印象を受ける。

すなわちインバウンドによる地方経済活性化の恩恵は、やはり都市部に集中しがちなのではなかろうか。

 

本当の意味でインバウンドを地元経済につなげるには、こうしたニーズを現場でマネタイズする手法を考えるべきだろう。

例えば中国消費者は今でもウェディングフォトに多くの費用を投じる。すでに沖縄県などで実例はあるが、強みである景観を利用し、こうした中国のウェディングフォト消費を取り込むということも考えられるだろう。

本当意味で戦略的なインバウンドが求められているのである。